ル・コルビュジエを代表する建築の一つ、南フランスにあるカップマルタンの休暇小屋。
わずか8畳ほどの広さにベッドや作業机などが収まっている極小の家ですが、コルビュジエが亡くなるまで愛した「終生の極小の住処」です。
一見、何の変哲もない小屋ですが、今日の近現代建築につながる機能性、効率性を極限まで追求した建築の元祖的な存在。
ユネスコの世界遺産にも登録されている小屋の情報をまとめて紹介します。
カップマルタンの休暇小屋の概要と特徴
この休暇小屋は、南フランスの景勝地ニースから車で約1時間。
イタリアとの国境近くの町、ロクブリュルヌ・カップ・マルタン(Roquebrune-Cap-Martin)にあります。
通称、フランス語で“小さな別荘”を意味する「カバノン」「キャバノン」(Cabanon de Le Corbusier)」などとも、呼ばれています。
もとは、ル・コルビュジエが妻イヴォンヌへプレゼントとして作った小屋です。
パリに住んでいたル・コルビュジエが人生の後半の多くの時間を過ごした場所です。
上の写真はカップマルタンの休暇小屋近くのビジターセンターに展示されている模型。
カップマルタンの休暇小屋に加え、ル・コルビュジエの生活の一部だったヒトデ軒(食堂)、小型の宿泊施設ユニテ・ド・キャンピング、コルビュジエが嫉妬するほどに素晴らしいアイリーン・グレイの邸宅「E.1027」があります。
ビジターセンターを出て、フランス国鉄の線路沿いの小道を歩き、柵の中の小さな入口を通ってサイト内(一連の建物のある敷地)へ入ります。
階段を下りて最初に目に入ってくるのが、緑の外装のル・コルビュジエの作業小屋(通称:アトリエ)。
こちらは「休暇小屋」とは別の建物です。
こちらの作業小屋(アトリエ)の内部には机と椅子だけがあり、もっぱら仕事のための作業部屋。生活のための機能は備え付けていないそうです。
カップマルタンの休暇小屋の図面、平面図、3D立体図
カップマルタンの休暇小屋の図面(平面図、立体図、断面図)を探したところ、外国のサイトですが、2つほどおすすめのものが見つかりました。
Atlas of Interiorsというサイトで、イタリアのインテリア専門家、Gianni Ottolini教授監修のもと、履修学生による研究成果として作られたブログの一部です。断面図がわかりやすく、立体的な 建築模型の写真あり。 |
もう一つがこちら。
WikiArquitecturaという建築版のウィキペディアのようなサイトで、建築写真やプラン(PLAN)が掲載されています。
https://en.wikiarquitectura.com/building/cabanon-de-vacances カップマルタンの休暇小屋と同じ敷地内に建つ「ヒトデ軒」「ユニテ・ド・キャンピング」などの配置図が入っています。 ①ユニテドキャンピング、②ヒトデ軒、③カップマルタンの休暇小屋、④コルビュジェの作業小屋(アトリエ)、⑤アイリーングレイのE1027、⑥ロクブリュヌ湾(地中海) このサイトでは、他のコルビュジエ建築のプロジェクトも掲載されています。 ≫ WikiArquitecturaのル・コルビュジエ作品集はこちら |
ル コルビジェ:カップマルタンの休暇小屋の外観
こちらがカップマルタンの休暇小屋。
まるでキャンプ場によくあるロッジのような外観。
これが建築史に重要な位置をしめる世界遺産?
誰しもが「なぜ?」と思ってしまうくらいの質素な木造の小屋です。
カップマルタンの休暇小屋の内観(内部)
狭い入口を入って小屋の中に入ってゆきます。
休暇小屋の内部は狭く、一度に4~5名くらいが限界の大きさです。
実際、そのこともあって、ここでは入場見学予約や方法が厳密に管理されています。
ベッド、トイレ、洗面所、クローゼット、作業机など、生活に必要な用具、機能がひととおり揃っています。
内部はベニア合板張りの暗めな空間。
窓の折戸の内側は鏡。限られたスペースを有効利用。
極限まで追求された知恵の結晶が狭い空間に詰まっている点では、日本の「茶室」に近いものが感じられました。
究極の家具位置や構成。
機能性、限られたスペースの有効利用は、ル・コルビジエの他の建築物、たとえば、ラ・トゥーレット修道院、マルセイユのユニテ・ダビタシオン、レマン湖畔の小さな家(スイス)など、多くの作品に共通しています。
木製のベッド。小屋内のすべて寸法基準はコルビジエが提唱した独自の尺度「モデュロール」にもとづいています。
「モデュロール」は人体寸法と黄金比を元にしたルコルビジェのオリジナルの寸法基準で、上記の他のコルビュジエ建築にも取り入れられているものです。
実感として、その寸法基準は、少し圧迫感があり、狭めという感もあります。
それは一般的にも言われていることですが、世界標準として根付かなかった理由の一つともされています。
窓を開けると地中海側から強い光が差し込みます。
夏場は空や海が美しく映えて、とても居心地の良い場所なのでしょう。
洗面台。
ル・コルビュジエは小屋の中に台所や浴室は設けずに、食事は隣の「ヒトデ軒」で、風呂は外にある簡易シャワーで済ませていたそうです。
ヒトデ軒(食堂)
カバノン(休暇小屋)の隣にある食堂です。
食堂のご主人はル・コルビュジエが心を許せる、親しい友人でした。
コルビュジエがここでヒトデ軒の主人たちとくつろいでいる姿(写真)が公式サイトにも掲載されています。
内装は画家としてのル・コルビュジエの作品。
ヒトデ軒のインテリアは派手な色使いだが、レトロな家具のためか、不思議と落ち着く場所でした。
海岸沿いの散策や海水浴が大好きだったコルビュジエ。
1957年に妻イヴォンヌが亡くなってからも、しばしば一人でカップマルタンの休暇小屋に滞在し、天気が良い日は海岸に繰り出していたと言われます。
泳ぐことが好きだったル・コルビュジエですが、1965年8月27日(当時77才)、小屋の前の海岸で、海水浴中に心臓発作で他界されました。
妻・イヴォンヌの故郷であるモナコを一望する丘には、ル・コルビュジエがデザインした墓があり、現在も夫婦が一緒に眠っています。
ユニテ・ド・キャンピング
ヒトデ軒のオーナーのためにコルビュジェが設計した宿泊施設が「ユニテ・ド・キャンピング」です。
5部屋ある建物の各部屋も、ル・コルビュジェの考案した寸法体系「モデュロール」にもとづいて設計されています。
色使いは、コルビュジエのシンボルカラー。
黄色は太陽、青は空間、緑は自然、赤は生命を意味し、この4色は「人生に必要不可欠な喜び」とル・コルビュジエが呼んだものです。
1つの棟にこのサイズの部屋が5部屋入る建物構造。
ここでも限られたスペースを極限まで工夫し、効率的、機能的に設計されていました。
部屋内部はシンプルですが、使いがってが良さそう。荷物置きスペースなども手が届く範囲にあり、客人を迎えるにふさわしい設計。
部屋の内装は壁は木のままだが、天井にはコルビュジエのシンボルカラー(赤黄青)。柱には緑。
アイリーングレイのE.1027
この敷地内にはもう一軒、必ず見るべき建物があります。
隣の敷地につくられたアイリーン・グレイ(Eileen Gray)の邸宅「E.1027」です。
アイリーン・グレイ(Eileen Gray, 1878年8月9日 – 1976年10月31日)はアイルランド出身の家具デザイナー。
「E.1027」は自身の別荘として、また、アイリーンの当時の恋人だった雑誌編集者、ジャン・バドヴィッチ(コルビュジェの友人)のために造った建物です。
「近代建築の五原則」を完全実現したル・コルビュジエの傑作、サヴォア邸の約2年前(1927~29年)に建造されているというのが驚きです。
その繊細でアイリーンのセンス溢れるデザインに感銘を受けるでしょう。
のちにル・コルビュジエはこの建物内に勝手に派手な壁画を描いて、アイリーン・グレイと険悪になったと言われています。
そのことは「コルビュジエはアイリーンに嫉妬していたのでは?」というスキャンダラスな扱いをされる話としても伝えられています。
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カップマルタンの休暇小屋:入場見学情報
施設側の都合により、開閉館、料金、見学方法は予告なく変わることがあります。
実際の訪問、予約にあたっては、下記の公式サイト等で必ず最新情報を確認の上、お出かけ下さい。
ビジターセンターの内部。建物内にはトイレやコルビュジエ関連のグッズの販売あり。
小さい建築モニュメントのため、人数制限あり。
個人か団体か、ガイド付きかにかかわらず、例外なく事前の予約が必要。
※冬季休館期間あり(例年10月下旬~5月初旬までは冬季休館期間)
オープンは5月上旬以降~10月中下旬(詳細日付は年により異なる)
個人予約(英語・フランス語)BOOK YOUR TICKET!をクリック
(但し冬季休館期間は予約受付自体をクローズしている場合あり)
管理運営団体:カップ・モデルヌ(Cap Moderne)非営利団体
カップマルタンの休暇小屋:場所、アクセス
所在地:Sentier Le Corbusier, 06190 Roquebrune-Cap-Martin
ニースから電車で約1時間。
フランス国鉄SNCFの「ロクブリュヌ・カップマルタン(Roquebrune-Cap-Martin)」駅下車、徒歩10分。
車の場合、ロクブリュヌ・カップマルタン(Roquebrune-Cap-Martin)駅付近で下車。
素朴で美しい民家の中にある約200段の坂道を歩くと、ビジターセンターへ到着。
フランス国鉄SNCF「ロクブリュヌ・カップマルタン駅」の駅舎とホーム
カップ・マルタンの休暇小屋:関連情報
カップマルタンの休暇小屋 公式サイト
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