インドのル・コルビュジエ作品と世界遺産建築【前編】

ル・コルビュジエは生涯で23回インドを訪れ、毎回、約1か月間ほど滞在し、それは亡くなる前年まで続きました。灼熱と乾ききった大地と混沌の中、コルビュジエが不安と煩悶の中で作品を残していった場所がインドです。

インドではチャンディーガル(世界遺産となったコルビュジエ建築群)以外にもう一つ、アフマダバード(アーメダバード)という町にコルビュジエ作品が残ります。コルビュジエは彼のモデュロールを使って、インドに35ものプロジェクトを残しています。

さらに、アフマダバードは、2018年にプリツカー賞を受賞したバルクリシュナ・ドーシがスタジオを構え、建築を通してインド社会に貢献してきた拠点。都市計画家としても知られるルイス・カーンの作品も残ります。

この記事では、インドで見ることができるル・コルビュジエ作品、そして、インドで世界遺産となっている名建築を写真でご紹介します。

(※)インドにおける大部分のコルビュジエ建築が残るチャンディーガルの詳細は、後編の記事でのご紹介となります。

アフマダバードの位置

アフマダバードはインドの西。首都デリーから飛行機で約1時間半の場所。街の中心を流れるサーバルマティー川を挟んで、近代的な新市街(西)と、歴史と混沌に満ちた旧市街(東)に分かれる。

▲アフマダバードの旧市街。約600年もの歴史をもつ。オート・リクシャ(日本のリキシャが語源)と呼ばれる三輪車が地元民の主な交通手段。

訪問のベストシーズン

インドの季節は大きく3つに分けられ、10~3月が乾季、4~6月が暑季、7~9月が雨季となります。乾季(10~3月)はほとんど雨がなく、過ごしやすい時期です。

冬にあたる11月末~2月は、デリーなどの北インドでは、朝晩に冷え込みますが、日中は雨量が少なく過ごしやすいため、一般的にインドのベストシーズンは12~2月と言われます。実際、旅行会社のインドツアーの多くは、12~2月によく催行されています。

コルビュジエ建築を見学する場合に気を付けなければならないのは、アフマダバードやチャンディーガルでの入場見学施設や「定休日」や「インドの国民祝日(休館)」「地方のお祭りの期間(臨時休館はホテル代の高騰)」に当たらないようにすることです。

また、首都のデリー周辺では12月中は霧も多く、比較的、フライトの遅延や変更が発生しやすい時期でもあります。

これらを踏まえると、訪問の時期は「1~2月で現地の祝日やお祭りにかからない期間」がベストシーズンと言えるのでしょう。

▲首都デリーでの一コマ。

アフマダバード(Ahmadabad)という町について

アフマダバードの気候はひどいものである。そのためにはいろいろの予防が必要である。

引用元:ル・コルビュジエ『モデュロールⅡ』吉阪隆正訳/鹿島出版会、175頁)

ル・コルビュジエがそのように言ったアフマダバード。

これは、現在のアフマダバードの旧市街。19世紀から繊維産業で栄え、現在もインド綿織物生産の中心地のため、旧市街には織物の手工芸品や日用品の店が立ち並び、町中にはインドの美しい民族衣装のサリーを女性も目立ちます。

また、多彩な宗教、文化、民族が融合する混在の街です。コルビュジエは約40年以上も前にインドの混沌と大地に身を投じ、真正面から向き合った。西欧的な理路整然とした秩序の中で建築家としての人生を歩んできたコルビュジエにとって、コルビュジエが困惑したのは気候だけではなかったと想像できる。コルビュジエは、様々な生物が区別なく生き生きと活動し、万物が一体化しているインドの現実に強い印象を受けたという。

アフマダバードのル・コルビュジエ建築

ル・コルビュジエは、アフマダバードに4つの建築(※)を築いています。その一つが繊維業者会館(1951-1954/Mill Owner’s Association Building)。さらに、サンスカル・ケンドラ美術館(1957/Sanskar Kendra Museum)です。

(※)「サラバイ邸」「ショーダン邸」の2か所は個人邸で、現在は一般見学不可となっております。

繊維業者会館/Mill Owner’s Association Building

ATMA House 187

▲繊維業者会館(1951-1954)▼Mill Owner’s Association Building (Photo©Sanyam Bahga)

(画像出典 www.archdaily.com©panovscott)

(画像出典 www.archdaily.com©Nicholas Lyadurai)

まるで建物全体が展望台のように、中から外の景色を見られる。光の入り具合や壁のボリューム感などが変化するという。

ル・コルビュジエは、当時のインド首相の秘書宛に、“繊維業者会館は、現代建築がインドの気候にも対処することができるという一つの証拠であり、アフマダバードに建てた他の作品とともに、インド建築に向けた真のメッセージとなるだろう”といった主旨で手紙を送ったという。

▲繊維業会館で入手した土産品。建築好きには、こうしたちょっとしたレアものの(マニアックな?)コレクションが嬉しいかもしれない。

サンスカル・ケンドラ美術館/Sanskar Kendra Museum

▲サンスカル・ケンドラ美術館(1957/Sanskar Kendra Museum)

1階には、かつてインドで凧(たこ)が流行した時代の人々の様子や凧の歴史資料が展示されており、通称「凧の博物館」。

「①東京の国立西洋美術館」「②チャンディーガルの美術館(Museum&Art Gallery)」そしてこの「③サンスカル・ケンドラ美術館(Sanskar Kendra Museum)」の3つをして、“コルビュジエの美術館3兄弟”とも言われます。

いずれも共通のピロティのある正方形のプラン(平面計画)を持っている。レンガやコンクリートの仕上げは粗く、前川國男氏が現場指揮をした東京の西洋美術館の仕上げと比べると、日本とインドの風土の違いが出ていて興味深い。

アフマダバード:その他の近代建築

バルクリシュナ・ドーシ関連

1951~1957年までパリでル・コルビュジエのもとで働き、その後インドに戻ってアフマダバードで独立。インドの低所得者層などが住む住宅や公共建築などの数々のプロジェクトを手がけた。また、ルイス・カーンとともにインド経営大学を手がけた。質の高く信頼性のある建築を通して母国やインド国民に貢献してきたドーシ。その功績が認められ、2018年『プリツカー賞』を受賞した。

Balkrishna Doshi

▲2018年にプリツカー賞を受賞したバルクリシュナ・ドーシ (Photo©Sanyam Bahga)

▲バルクリシュナ・ドーシの事務所「サンガト」(画像出典 www.archdaily.com)

採光や風通しを考えたアトリエ「サンガト」。屋根の白いモザイクタイルが美しい。インドの伝統的な寺院の構成を生かした半地下のアトリエで、屋根の水を集めて建物を冷却しながら循環させ、アプローチから階段を下りたエントランスホールの壁面は、ドーシの作品とコルビュジエのスケッチが描かれているという。

インド経営大学(ルイス・カーン作)

Louis Kahn Plaza

▲インド経営大学(1974)IIMA:Indian Institute of Management (Photo©Vastrapur)

インド最難関大学院の一つ。アメリカのハーバード・ビジネススクールをモデルにした経営学校と言われ、アメリカの建築家、ルイス・カーンが手がけた。幾何学的な建築が特徴。

インドでのコルビュジエの空間が奔放でダイナミック(ラフな仕上げ)と言われるのに対し、カーンの空間は静かで穏やか、仕上げは精密と評されている。ともに力強い点で共通し、この地で二人の巨匠の作品を見比べることがアフマダバードの訪問価値を高めることでしょう。

アフマダバードのインド伝統建築

アフマダバードの旧市街は、約600年の歴史をもつ古都。アハマダバードは近代建築以外に、歴史的建造物が豊富に残り、街自体があたかも「建築博物館」のようであります。

 

▲ダーダー・ハリの階段井戸。1499年、当時のイスラム政権の王妃ダーダー・ハリの命により築かれた。数十段の階段を下って井戸に至り、さらに井戸の深さは20mほどという巨大な井戸。建築学的にきわめてすぐれた建物として世界的に知られている。イスラム教徒により築かれたため、装飾には偶像はないのも特徴。

▲ハーティースィン・ジャイナ教寺院(1848年建造)。アフマダバードの伝統建築はイスラム色が濃いが、この寺院はレース状の精緻な石刻、そして、柱に丸彫りされたジャイナ教の神々の偶像が目を引く。

チャンディーガル(コルビュジエの世界遺産建築群)

後編「チャンディーガルのル・コルビュジエ建築」はこちらをご覧ください。

インドのル・コルビュジエ建築を見るツアーはこちら

インドの名作建築を訪ねる旅
~ル・コルビュジエを中心に、ドーシ、カーンからタージマハルまで~ 8日間