近代建築の巨匠ル・コルビュジエの建築作品や生涯についての書籍類は、日本語版でもかなり多く出版されています。
内容は、一般の建築ファン向けのもの、プロの建築家、建築を学ぶ学生、研究用など様々です。
ここでは、筆者が役立ったル・コルビュジェ関連の資料の中から、建築モニュメント単体でなく網羅的に取り扱っている本、学術色よりも実用色の濃い本を主に紹介しています。
SD選書 コルビュジェ:ル・コルビュジエ著
「SD選書」シリーズは、ル・コルビュジエが執筆した原書を日本人弟子の吉阪隆正や坂倉準三らが翻訳したものです。
1965年に鹿島出版会から出版がはじまりました。
本の装丁や文体のテイストは古めですが、「建築をめざして」「輝く都市」「モデュロールⅠ、Ⅱ」「東方への旅」など、コルビュジエの原点に触れることができます。
コルビジェは自身の建築理念等について、メディアや雑誌、書籍での発信力が高く、その活動はとても旺盛なものでしたが、当時のコルビュジエの熱気などがそのまま伝わってきます。
概念的な話が多めですが、ル・コルビュジエを知る、近代建築の根本理念を理解する上で役立つ書籍と言えます。
世界の普遍的な名作小説同様、建築家や建築を学ぶ学生の方の本棚にこれらの本が混ざっていたら、「おっ?」っと一目置かれそうな類の本と思っていただくとよいと思います。
「建築を目指して」ル・コルビュジエ著
「輝く都市」ル・コルビュジエ著
「モデュロールⅠ・Ⅱ」ル・コルビュジエ著
「東方への旅」ル・コルビュジエ著
「エスプリ・ヌーヴォー」ル・コルビュジエ著
「ル・コルビュジエの教科書。」Casa BRUTUS
建築・デザインをテーマとした雑誌Casa BRUTUS編集の「最新版 建築家ル・コルビュジエの教科書。 (マガジンハウスムック) 」。
グラフィック誌的な仕上がりの光沢のある上質紙を使ったA4サイズのムックで、初版は2004年頃です。
コルビュジエの生涯、ヨーロッパに加えてインドのコルビュジェ建築、ソファや椅子などの家具デザインの掲載もあります。
写真が多く、雑誌を読む感覚で読めると思いますが、さすがは建築デザインを専門とするCasa BRUTUSの編集。
チープ感を全く感じさせず、長く手元に置きたくなる内容の濃さとボリューム(180ページ)があります。
長く建築やデザインの仕事をしてきたプロの方が、あらためてコルビュジエ建築を見直してみる際にも、ほどよい内容かと思います。
また、読みやすく、旅行的な情報も含まれ、一般読者の「コルビュジエ建築への入口」としてもお勧めでできます。
建築の詳しさにかかわらず、どのような読者も読みやすいでしょう。
その後、2016年にコルビュジエ建築がユネスコの世界遺産に登録された機運を受けて、12年ぶりとなる「ル・コルビュジエ特集」の改訂版ムックが、Casa BRUTUSから発刊されました。
改訂版では、上記の2004年の内容を踏襲しつつも、安藤忠雄、隈研吾、伊東豊雄など日本を代表する建築家らが、独自の視点でル・コルビュジエ建築を解説したページが盛り込まれました。
コルビュジエ建築の基礎解説、コルビュジエの絵画、家具などのインテリア、人物像まで迫っています。
「ル・コルビュジエの勇気ある住宅 」安藤忠雄著
安藤忠雄ファン、学術テイストではなく、コルビュジエ建築に楽しみながら触れたい、知りたいという一般読者へおすすめできる本です。
2004年に発刊した新潮社のとんぼの本シリーズで、A6サイズより少し大きめです。
安藤忠雄さんが大きな影響を受けたル・コルビュジエと建築について、実体験に基づいて、多くのカラー図版と写真を使って、文章が展開され、臨場感があります。
安藤忠雄さんの視点で、コルビュジエや体験が語られ、コルビュジエのスタイルを取り入れた安藤忠雄作品も紹介されています。
フランスやスイスで、コルビュジェ作品の実物を見に行く前、建築への関心を高める入口としても参考になると思われます。
「世界遺産 ル・コルビュジエ作品群」山名善之著
建築家・美術史家でル・コルビュジエ研究の第一人者、山名善之さんによる著作。
TOTO建築叢書発行のA5サイズの単行本。
山名善之さんは国立西洋美術館が2016年に世界文化遺産に登録された際、中心的な役割を果たした実践力の高い研究者。
ル・コルビュジエの17のモニュメントが世界遺産登録された審査過程、数々の議論についても知ることができます。
建築家一個人の作品群が、人類共通の普遍的な価値であるユネスコ世界遺産に認定された経緯をつうじて、歴史文化遺産の保護や継承についての理解も深まりました。
詳しい情報が必要な人へおすすめの2冊
「ル・コルビュジエ全作品ガイドブック」加藤道夫 監訳
デボラ・ガンズ(Deborah Gans)という外国人研究者の著作を、東京大学のル・コルビュジエ研究科である加藤道夫教授が監訳して出版されたものです(丸善出版)。
2008年発刊。A6サイズ程度。ソフトカバー
全作品ガイドブックというだけあり、網羅性が高く、各モニュメントごとに、図面や写真も掲載されています。
内容はかなり専門的です。
建設背景や建材や構造のことなど、建築用語や概念的な言葉も多く含まれますが、建築家を専門とする人にとっては難しくはないように思えます。
「地球の歩き方」と似たようなサイズのA6判のガイドブックサイズで、モニュメントの所在地やアクセス方法の記載もあり、自宅や仕事場のデスク、旅先の両方で役立つことでしょう。
網羅性や専門性のあるコルビジェ建築の本を必要としている場合には、おすすめできます。
「ル・コルビュジエー建築・家具・人間・旅の全記録」
2002年発刊。240ページ。A4サイズよりも大きめで、ハードカバーで図鑑のような装丁です。
「全記録」というタイトルが示すとおり、本というよりも図鑑に近いです。
文章、写真、図、地図をふんだんに使って、かなり細かく解説され、調べもの、資料的な利用の仕方がおすすめできます。
内容はマニアックで建築用語も多く含まれますが、最初から日本語で書かれているためか、外国語の翻訳本に比べて文章が読みやすく、わかりやすい内容です。
筆者は「コルビュジエ建築を全体的に一番詳しく解説している書」として位置づけ、とても気に入っています。永久保存版の建築本の一つです。
中古品だと2千円~4千円くらいで取引されていることもあるようですが、個人的には5千円~1万円くらいの価値があると内容だと感じています。
ムック版と文庫版があるようなので、通販購入の際には要注意かと思います(図鑑サイズはムック新装版)。コストパフォーマンスの良い中古品も要チェックですね。
旅行におすすめの2冊
以下の2冊はル・コルビュジエ建築の中の有名代表作品をダイジェスト的に紹介している本で、わかりやすい言葉で書かれ、読みやすく、持ち運びしやすいことが特徴です。
「ル・コルビュジエを歩こう!」エクスナレッジムック
ル・コルビュジエが手掛けた36作品の解説と詳細マップをまとめた文庫版サイズのガイドブック。
ずぼんのポケットに入るサイズで、フランス、スイス、ドイツ、ベルギー、イタリア、ロシアを訪れ、電車やバスのタイムスケジュール、運賃、所要時間、建物の開館時間、見学の可否などの実用情報が掲載されています。
作品の解説は、文庫版の小さい紙面スペースの中で、過不足なく紹介されています。
2002年に発行され、その後、時間が経っているため、モニュメントの営業情報などは公式サイトなどで最新のものを確認する必要があります。
コルビュジエ作品自体の価値は普遍的のため、本の内容は、20年来、手にしていても古さを感じさせないところが良いです。
「ル・コルビュジエが見たい!」加藤 道夫 監修
2016年に洋泉社から出版された、コルビジェ書籍としては、比較的新しい本です。
20世紀の建築に大きな影響を与えたコルビュジエ作品や思想はどのようなものだったのか。
世界遺産に登録された17の建築を豊富な写真で読み解くとともに、ル・コルビュジエ人生を辿っています。
「ル・コルビュジエ 全作品ガイドブック」の翻訳者で、元東京大学のコルビュジの研究者、加藤道夫さんが監修。
上の「ル・コルビュジエを歩こう! (エクスナレッジブック)」との相違として、こちらは掲載する建築数を絞り、より解説に重点がおかれています。
また、ル・コルビュジエの人生についても語られている点です。
旅行のための実用情報は少なめですが、わかりやすく読みやすく、解説ボリュームもちょうどよい、さらに新書版サイズで持ち運びやすいのが旅行用に向いていると言えます。