この記事は2018~2019年にかけて日本国内を巡回している「アルヴァ・アアルト(アールト) もうひとつの自然」展の見学鑑賞、体験記です。
展覧会への訪問を検討したり、他の感想を知りたい場合、また、アアルトに関心のある人に向けて書かれています。是非ご参考になさってください!
アルヴァ・アアルト(アールト)とは?
アアルト(アールト)は常に「自然と人間との関係性」を見つめ続けたヒューマニズムの建築家と言われます。
アアルト(アールト)が活躍しはじめ頃、1920-30年代といえば、世界は鉄筋コンクリートとガラスで作りあげる「モダニズム建築」に沸き立っていました。
新しい人工的な素材で大量生産をする建築こそ、世界の新しい標準として礼賛されはじめた時期で、フランスではル・コルビュジエ、ドイツではミース・ファン・デル・ローエなどが代表格です。
そして、機械化や合理主義全盛期の中、木造や自然素材は、時代遅れの古いものとして見なされつつありました。
しかし、アアルトはモダニズムの中にも、自然がもつ「有機的な線」や「木のしなやかさ」を一貫して自身の建築や家具に取り入れてゆきました。
アアルト展 概要
森と湖の国フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto/1898年~1976年)。
2018年は生誕120年にあたります。
この展示会は、ドイツ、スペイン、デンマーク、フランス、フィンランドなど、ヨーロッパ5か国を巡回し、日本にやってきました。
日本では約20年ぶりとなる本格的なアアルト展となり、以下の巡回が予定されています。
神奈川県立近代美術館(葉山館)(2018年9月15日 – 2018年11月25日)
名古屋市美術館(2018年12月8日~2019年2月3日)
東京ステーションギャラリー(2019年2月16日~4月14日)
青森県立美術館(2019年4月27日~2019年6月23日)
アアルト展の内容:オリジナル図面やスケッチ、建築写真の展示
展示は、ドイツ人の写真家アルミン・リンケによるアアルト建築の大型写真をはじめ、オリジナルの図面や家具、照明器具、ガラス器、建築模型など約300点により、アアルトの生涯や作品を辿っています。
特にパイミオのサナトリウム(1933)の写真、当時の部屋の再現は、リアルな感じが伝わってきて見応えがありました。
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アアルトの最高傑作と言われる「マイレア邸(1939)」をはじめとする数々の図面や自筆のスケッチも、生身のアアルトが伝わってくるような気がする興味深いものでした。
日本でもよく目にする北欧家具や食器の源流?
アアルトは多くの建築において家具や照明器具など、調度類のデザインも手がけましたが、この展覧会では、妻のアイノ・アールトをふくめた家具や食器の実物展示がよかったです。
具体的には《アームチェア 41 パイミオ》、ロングセラーの《スツール 60》、ガラス器《サヴォイ・ベース》(1936)などです。
「あ、これ知ってる!」「よく見る椅子だよね、これアアルトがオリジナルなんだ!」と、何度も頷くほどでした。
たとえば、無駄のない3本脚のスツール(背もたれのない丸い腰かけ椅子)。
下の写真のデザインの椅子は1932年にアアルト発表した《スツール 60》です。
日本でも、たくさん見たことあるのではないでしょうか?
そして、《アームチェア 41 パイミオ》。下の写真(レプリカ)。ひじ掛けの曲線がなめらかで特徴的です。
また、ガラス器《サヴォイ・ベース》(下の写真:アアルトールームの復刻版の器)
▲「アアルト・ルーム」にて
これらは日本人も一度は目にしたことのあるデザインで、フィンランド・デザインのシンボルとなっているものです。
そのデザインは、現在も家具メーカーによって引き継がれて製造されていますが、会場では実際に1930年代に売り出された当初の使用されていた年季の入ったオリジナル品が展示されています。
アルヴァ・アアルトがデザインした木製の椅子や、その妻のアイノのデザインであるガラス食器。それらのなめらかで流動的な曲線。
それらのフォルムや素材には、自然を取り入れたアアルト作品の特徴を見た気がしました。
アアルト・ルームで使い心地を体験
これだけ大きなスペースを使ってのアアルト体験は神奈川県立近代美術館だけのようですが、特設コーナーとして実際に座ったり触ったりできる体験スペース「アアルトルーム」での体験はよかったです。
北欧のファニチャーブランド「アルテック」、そして、フィンランドの小さな村(イッタラ村)ではじまったガラス製品のブランド「イッタラ」の協力のもと、代表的な再現家具を並べ、アルヴァ・アアルトのデザインを体感してみることができました。
アアルトのデザインが今も商品として継続販売されているからこそ、体験できることです。
▲「アアルト・ルーム」にて▼
現在のスウェーデン発祥の家具メーカーの「イケア(IKEA)」、北海道ではじまった「ニトリ」で売られているような見慣れた家具デザインを思い起こします。
現在、日本で人気になナチュラルかつシンプルな人気家具も、1900年代の前半にアアルトをはじめとした北欧で発祥したデザインに起源があるように思えました。
現在の家具、調度品のデザインの源流を見るという意味でも、意義深い展覧会でした。
▲アアルトルームにて
アアルト展「もうひとつの自然」の図録カタログ
この展示会の公式図録(和田菜穂子氏の編纂)。B5サイズくらいの大きさで、図録の厚さは4~5cmあります。
厚さ4~5cmというと、いかにもボリュームがありそうに思いますが、内容は余白や写真がほどよく含まれており、とても読みやすいものです。
この展覧会がこれまでにはない、独自の切り口で構成されていますが、図録は展示会に準じた内容になっています。
また、展示会の図録カタログ本でありながら、建築家アルヴァ・アアルトの集大成のような仕上がっていると言えます。
下はアアルト展の図録を編集、執筆した建築史家の和田菜穂子さんの北欧建築の本。
A6判サイズ。
アアルトをはじめ、北欧モダン建築を代表する7人の建築家(※)の自邸を中心に、それぞれの建築家の代表作品が紹介されています。
北欧のモダニズム建築への入口、広く知りたい場合におすすめできます。
(※)アルヴァ・アアルト(フィンランド)、スプルンド(スウェーデン)、アルネ・ヤコブセン(デンマーク)、モーエンス・ラッセン(デンマーク)、ヨーン・ウッツォン(デンマーク)、アルネ・コルスモ(ノルウェー)、スヴェレ・フェーン(ノルウェー)