日建設計の山梨知彦さん著「山梨式 名建築の条件」を読んだので紹介します。
山梨知彦さんは、日本建築学会賞作品賞(2014年)、JIA日本建築大賞(2011年)、JIA新人賞(2009年)などを受賞し、業界では著名な建築家。
内容は、日経アーキテクチャの連載記事の中の20建築を取り上げて解説した総集編的なもので、一流の設計会社としての視点がとても新鮮。勉強になりました。
「名建築(名作建築)」と言って、すぐに思い浮かぶのは近代建築の巨匠、ル・コルビュジエであり、ライトであり、ミースなど。
しかし、最新の現代建築、古代建築まで広げれば、その数は限りありません。
もともとこの書籍企画(書籍化のきっかけ)は、日経アーキテクチュア誌から「名建築について連載しませんか?」という話があり、連載をはじめたことがきっかけだそうです。
その際、山梨先生は「名建築は何か?」、どう定義づければよいかという自分自身への問いかけからスタートしたといいます。
山梨先生はこの著作の中で、主に、1950~1970年代の日本の建築界をリードしてきた作品群を取り上げています。
絶対的な名建築がこの時代に多いということでなく、ご自身の生まれ育った時代の背景や影響からして、山梨先生の建築的関心を引きつけている作品がこの時代に多いからではないかと、ご自身で分析をされています。
この書籍で強く印象に残っているのは、最新現代技術ももとにした「構造、設計」という視点での解説です。
名作建築を見に行く旅行企画では、主に建築作品の地域、時代的・文化的背景との接点、一人の建築家のヒストリーが主な視点となります。
そのため、構造、設計という観点で建築をとらえる機会は少ないのですが、構造設計という視点で見ると、建築がより深遠な、広い世界でとらえられてきます。
取り上げられている20の作品は、それぞれに興味深いものですが、山梨先生が「自分にとって名建築とはなにか?」「自分はそこから何を学ぶことができるか」を明らかにするための視点が、とても新鮮でした。
それは「統合」「原理」「「空間」「時間」「素材」「人間」「場所」という7つの視点。
「これらが普遍的、絶対的に名建築か否かを語る視点か否か知るところでないが、ご自身がその判断を下す際には、知らず知らずのうちの、これらの7つを根拠にしていた」と書かれています。
たとえば「原理」というキーワードに関していえば、通常は普遍的な原則を示す言葉として使われることは多いところ、この中では、むしろ「アルゴリズム」のように、「建築家自身がモノを作る上で想定しているルール」として捉えられています。
そして、山梨先生は、この連載をとおして「自分にとっての名建築とは何か?」ということへのヒントをわずかながらに掴んだ、ということに触れています。
▲銀座ソニービルの跡地(2018年6月現在:建て替え中)/その奥はエルメスのビル
書籍で取り上げられた名建築のいくつかは、存続の危機にさらされています。
旧ソニービルの、ショールームでありながら、いかにもでない自然な感じや不思議な居心地の良さは、今でも忘れられません。
次の時代の銀座ソニーパークに期待したいです。