フランス ル・コルビュジエ

フィルミニのコルビュジエ建築群、文化の家や教会、見学情報《フランス世界遺産》

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

建築家ル・コルビュジエが晩年に携わったプロジェクト、フランス中部のフィルミニ・ヴェール(緑のフィルミニ)。他のコルビュジエ建築群とは少し異なる歴史背景をもちます。

フィルミニにあるコルビュジエ建築群(Site Le Corbusier)の多くは没後に完成したものですが、街はそれを現役の建物として機能させ、今も地域コミュニティの大切な場所として市民の生活に生かし続けています。

フィルミニの建築群の概要と見学訪問や体験談をまとめてご紹介!

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フィルミニ・ヴェールとル・コルビュジエ

フィルミニを含む広域自治体サン・テティエンヌは、18〜19世紀の産業革命で炭鉱が開発され、成長を遂げた地域です。

その際、フィルミニにも多くの工場ができ、多くの労働者たちが暮らす街へと発展してゆきました。

第二次世界大戦後、荒廃した街の復興開発の一環として、1950年代に「フィルミニ・ヴェール(緑のフィルミニ)の都市計画」と呼ばれる近代的な地区の開発が始まりました。

フィルミニ・ヴェール(1959~1965年)は旧市街と新市街を結ぶ地区であり、プティ市長は、緑化地帯を守りつつ近代都市として再開発を試みようと、文化施設(文化の家)、スポーツ施設、教会、そして住居の設計とル・コルビュジエへ依頼しました。

クロディウス・プティ市長は、元フランス建設復興大臣であり、大臣を務めていた当時、ル・コルビュジエを代表する集合住宅、マルセイユのユニテ・ダビタシオンの建設を依頼した人物です。

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フィルミニのル コルビジェ建築群とは?

フィルミニにあるル・コルビュジェ建築(Site Le Corbusier)は4軒。

うち3軒「文化の家(Maison de la culture)」「競技場(Stade)」「サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre)」は同じ場所にあり、それぞれの間を徒歩見学できます。

「ユニテ・ダビタシオン(Unité d’habitation Le Corbusier)」は少し離れています。サン・ピエール教会や文化の家から片道で15~20分。坂の上にあります。

いずれもコルビジエ晩年の仕事であり、その4つのうち、文化の家を除く3つは、ル・コルビュジエの没後に完成しています。

サン・ピエール教会は、フェルミニのコルビジェ建築群のビジターセンターにもなっており、展示室や土産店が建物内部に設けられています。

それぞれの位置関係は下の地図のとおりです。

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フィルミニの文化の家【世界遺産】1959-1965年

文化の家(文化会館/Maison de la culture)はル・コルビュジェが生きている間に完成した、フィルミニ建築群の中で唯一の建物。

フランス政府は、当初、フィルミニの都市計画全体やフィルミニの建築群をユネスコ世界遺産へ登録しようとしましたが、最終的にフィルミニでは、この「文化の家」だけが単体建築作品として世界遺産に登録されています。

当時、コンサート、講演会、ワークショップなど文化的活動のために建てられた。現在もその用途で利用されています。

ル・コルビュジエが最期にフィルミニへ訪問したのは亡くなる3か月前(1965年5月)。開館式に出席した時だと言われます。

コルビュジエ亡き後は、弟子のアンドレ・ヴォジャンスキーが中心となって引き継ぎました。

ル コルビジェ:文化の家の外観

文化の家(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲建物の全長は112m。各7mのブロックが16スパン続く形状で、屋根は132本のケーブルで支えられ、その上に10センチ厚のコンクリートで覆って屋根としているという。

文化の家(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲建物の側面は張り出した先端部分を頂点に緩やかなU字型の放物線が作り出すとなっています。この傾斜を可能にしたのは、まさに鉄筋コンクリートがあってこそです。

文化の家(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲文化の家は、採石場跡地に建てられました。今も残る崖場の部分(下の写真の右下)には石炭や砂岩の層が見られます。側面の縦長の細い窓の周囲の4色(黄色、赤、青、緑)は、内装(内部のドア)にも採用されています。

文化の家(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲会館の内装設計を担当したのは、弟子アンドレ・ヴォジャンスキーとピエール・ガリッシュ。二人の弟子は、コルビュジエ建築でよく使われている色を研究し、彼らはこの4色を使用しました。

黄色は太陽青は空間緑は自然赤は生命を意味し、この4色は「人生に必要不可欠な喜びとル・コルビュジエが呼んだものです。

4色の色を取り混ぜた広いガラスの壁の区切り方、区切り幅は、均一でありません。

これはフィルミニの建設プロジェクトに関わった弟子で、その後、現代音楽家としても活躍するヤニス・クセナキスのアイディアが取り入れられていると言われます。

クセナキスは、ガラスの壁を音楽の譜に見立てて、リズムを感じさせるようなスペース配分としました。この楽譜のような不規則なスペース配分は、同じくヤニス・クセナキスのアイディアを取りて設計された、ラ・トゥーレット修道院でも見られるものです。

文化の家の内部

文化の家の内部(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲文化の家の内部。その後も改装を重ね、内部はとてもきれいだ。上の写真の右側は建物の受付台。

文化の家の内部(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲内装はちょっとしたところにも、ル・コルビュジエの意思を残しています。

文化の家の内部(文化会館/Maison de la culture):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲窓枠にル・コルビュジエが唱えた基準寸法「モデュロール」を象徴する人間の形、そして、コルビュジエが愛用したメガネを模ったオブジェ。

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フィルミニの競技場:1965-1968年

競技場(Stade)は文化の家の前。フランスで唯一、ル・コルビュジエが手がけた競技場と言われます。

陸上競技用のトラックは400メートル。観覧席は立ち見を含めると約4,000名収容。現在もフィルミニ市のスポーツ競技場として利用され、訪問時も寒い中、市民ランナーがトレーニングをしていました。

競技場(Stade):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

競技場(Stade):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲建築に使われている素材は、鉄筋コンクリート。観覧席の中央に張り出した板状の屋根は、32m×16mという大きさで、鉄筋コンクリートの強みを生かした屋根です。スタジアムの奥にサンピエール教会の塔の一部が見えています。

競技場(Stade):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲スタジアムのトラックを挟んで、サン・ピエール教会側から文化の家を望む。

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フィルミニのサンピエール教会: 1960(73)- 2006年

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre)はル・コルビュジエが生涯で手がけた3つの宗教建築の一つ。ル・コルビュジエ最後の教会建築となりました。(残り2つはロンシャンの教会、ラ・トゥーレット修道院)。

1960年代のはじめに設計を終えて模型も作られていましたが、地盤が弱く不安定だったことから、着工は彼が亡くなった8年後の1973年~となりました。

ル・コルビュジエ没後に工事が開始されたものの、地盤の問題以外にオイルショックなどの影響による資金面の問題も生じ、工事は長らく中止。長期間にわたり放置状態にありました。

その後、2000年以降にフィルミニ市の積極的な政策により工事を再開。2006年に完成しました。

このサン・ピエール教会に関しては、ル・コルビュジエの設計は生前に全て終了していたわけではありませんでした。その空白部分は弟子のウブルリ氏によって設計が行われています。

塔(天井)の高さは異なる3通りの設計案が存在しました。2006年の完成にあたり、どの設計案を採用すべきか、ル・コルビュジエ財団とフィルミニ市では軋轢もあったと言われます。(最終的には一番低い34mの高さの設計を採用された)

地方自治体の公共施設として利用して事情から、内部の司祭部屋を展示場に改造したり、オリジナル設計とは異なる仕様に変えられた部分も少なくありません。

フィルミニの教会の外観

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲サン・ピエール教会の外観。散歩をするようになだらかな通路(上の写真の左側、下の写真の右側)を辿り、建物上層部の教会内へ入ります。

コルビュジエ建築によく見られるこの「建築的プロムナード」は、建物をさまざまな角度で体験できるようにという意図で設計。

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲教会の形がラテン十字ではなく、四角というのが珍しい。教会が祈りの場だけでなく、街の人々(職人たち)を結ぶ場でありたいという考えから教区がリクエストしたもの。

コルビュジエは、それ以前にも、ロンシャンの教会(1950~1955年)において、従来の型にはまらない斬新かつ革新的な宗教建築を手がけています。

フィルミニの教会の内部

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲内部は残響が長く続く構造で、ミサの場合はかえって話が聞こえづらいという評判も。この教会内で地元の合唱フェスティバルも開催されています。

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲サン・ピエール教会で印象的なのは内部の光の美しさ。

晴天時には、祭壇後方の壁にある複数の開口部から射し込む光によって、星が瞬くような光景となります。

日光が差し込む時間帯は、流れ星のようにコンクリートの壁に光が流れてきます。

太陽の動きによって異なる光が塔内に差し込み、朝は光の帯が幾重にも堂内をめぐり、日中は塔の上部からの光が差し込みます。

そして、夕方には西側の採光筒からの光が静かに祭壇を照らします。

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲明かり取りの窓の内側に色が塗られていることによって、壁に差し込む光がピンクや黄色を帯びてきます。

太陽光による神秘を感じられる仕掛けです。

これら、天井、スリット、バラ窓などから入る光が聖なる空間を作り出し、信者を精神的な高みへ誘います。

サン・ピエール教会(Église Saint-Pierre):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲弟子のウブルリ氏は、コルビュジエが決定していなかった部分をどのようにすべきか、大いに頭を悩ませたそうです。

「コルビュジエだったら、こうしただろう」ということを想像しながら、一つ一つ、空白部分を設計したと言われています。

サン・ピエール教会の受付:フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲サン・ピエール教会の内部には、ル・コルビュジエの簡単な展示があります。

受付ではル・コルビュジエ建築のガイドブック以外にも、コルビュジエ関連グッズも販売。コルビュジエ関連グッズは、全体的に入手しずらいものですので、良い記念になることでしょう。

フィルミニのル・コルビュジエ建築群は文化遺産でありながら、フィルミニ市の公共施設でもあり、現在も市民のためのイベントや活動に利用されていることが特徴です。

コルビュジエの作った建物を利用した現役の公共施設というわけですね。

フィルミニのユニテ ダビタシオン(1968年)

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation)とは、建築家ル・コルビュジエが設計した一連の集合住宅。Unité d’Habitationは、フランス語で「住居の統一体」と「住居の単位」の二重の意味があります。

フェルミニのユニテ・ダビタシオンは、ル・コルビュジエが設計した計5つのうちの1つです。

幅131メートル、奥行き21メートル、高さ57メートル。設計当時、計3棟のユニテ・ダビタシオンが建築され、3棟の中央には商店が並び、3棟を結ぶ移動交通手段の敷設も想定されていました。しかし最終的には1棟のみとなりました。

住民のためのテレビ室や読書室も備えた建物を地区のイメージでとらえたル・コルビュジエは、各フロアを1階、2階ではなく、第1ストリート、第2ストリートと名づけていました。

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

▲1階のピロティ部分。マルセイユのユニテ・ダビタシオンにある大胆なコンクリートの打ち放しのピロティ(ブルータリズム)を彷彿とさせます。

柱にはユニテ・ダビタシオン内の部屋の写真が掲げられていました。

少なくないル・コルビュジエ建築のファンが訪れる場所で、訪問者への配慮(サービス)が感じられます。

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

ユニテ・ダビタシオン(Unité d‘Habitation):フィルミニのル・コルビュジエ建築群(フランス)

ル・コルビュジエが編み出した基準寸法「モデュロール」を図解する彫刻。

モデュロールは、人が立って片手を上げた時の指先までの高さ(182.9cm)をコルビュジエが考案した黄金比で割り込み、それを建造物の基準寸法にするというものです。

ユニテ・ダビタシオンもモデュロールの計算により設計されています。

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フィルミニのコルビュジエ建築群:入場見学情報

施設側の都合により、開閉館、料金、見学方法は予告なく変わることがあります。

実際の訪問、予約にあたっては、下記の公式サイト等で必ず最新情報をご確認の上、お出かけ下さい。

営業曜日・時間・料金

以下、公式サイトから日本語訳して抜粋

※受付デスクは、「文化の家」の中、または、「サン・ピエール教会」の中の2カ所

≪営業時間≫
午前10時から午後12時30分、午後1時30分から午後6時まで
※終了時価の15分前にチケット売場が閉められます。

≪営業曜日≫

2019年1/7~2/17:金・土・日曜日のみオープン(但し文化会館は日曜日閉館)
2019年 2/17~7/9:火曜以外の毎日オープン
2019年 7/10~9/1:毎日オープン
2019年 9/2~11/10:火曜以外の毎日オープン
例年:12/25、1/1、5/1は閉館

≪入場料≫

6,50€/ 5,50€* / 8歳未満のお子様は無料
ファミリーパス(18歳未満のお子様を含む4名用のサイト入り口):20€

ガイド付きツアーは別の料金(下記サイトで確認できます)
※ガイドツアーに参加希望の場合、必ず事前予約が必要

公式サイトでの最新の開閉館、料金等の確認の仕方

最新情報が必要な場合、下記の以下、フィルミニ市の公式サイトで必ずご確認下さい。

最新情報はこちらの公式サイト(フィルミニ市)より下記の手順で確認できます。

フィルミニの場所、行き方、アクセス

フィルミニはフランス中部の大都市リヨンの南西約75km。リヨンから車で約2時間弱の場所にある中規模都市です。

リヨンから列車利用だと、乗り継ぎで最短1時間半~2時間ほどの距離です。

  • 国鉄(SNCF)「フィルミニ駅」から徒歩15分(SNCF公式サイト・時刻表
  • バス「Line1(St-Etienne/Firminy)」利用の場合、「église Le Corbusier (コルビュジエ教会)」下車・徒歩1分

※受付デスクは、「文化の家」の中、または、「サン・ピエール教会」の中の2カ所

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